創作のための映画と読書まとめ

当ブログは「良き創作は良き鑑賞から」をモットーに、鑑賞した映画と本についてまとめておく目的で設立されました。同志よ集え!

凪良ゆう『流浪の月』の感想と考察|これが読まれる今、長谷川博一『殺人者はいかに誕生したか』も読まれるべきだ

ネタバレ含みます。

 

この本、感想を言いたくなりますよね。 さすが本屋大賞。

 

さて、感想と考察に移ります。

 

 

ざっくりとしたあらまし

 

『流浪の月』は、ロリコン大学生に誘拐され、性的暴力を受けたと「世間から思われている」女の子が主人公の物語だ。実際には、大学生は少女を保護した立場であり、本当に性的暴力を働いていたのは、女の子の住む家の中学生男子だった。女の子は、家族が離散し、親戚の家で暮らさざるを得ず、その立場の弱さからも、被害を訴え出ることができなかった。――家に帰りたくない。そんな思いから、大学生のもとへ転がり込んだのだ。

 

 しばらく幸せな時間があった。久しぶりの平穏。安心して眠る喜び。しかし、幸福は長く続かなかった。事件が明るみに出て、大学生が少女を誘拐したという誤った情報が流布した。二人の情報は、永遠にネット上に残り続けるのだった。

 

と、いうのが序盤の流れ。

 

 

注目ポイント1 色

 

特筆すべきは、色の描写が巧みであること。

 

1つ目は、家族との思い出は、カクテルのような透き通った色合いで表現されている。カタカナの多様で、グリーンの美しさが際立っている。

 

2つ目は、対比的に表されている、親戚の家での灰色、どろどろの、濁った色だ。鮮やかな思い出の色と対比されることで、いまがどん底であることが強調される。

 

最後に3つ目ロリコン大学生の色は、「白」。すべてを漂白し、ニュートラルの状態に戻す色だ。

 

子供の目線から、色を繰り返し描写することで、我々読者が想像する世界が鮮やかに色づく。

 

注目ポイント2 「主題と構成」

 

もうひとつ巧みであったのが、「真実は誰にも見えていない」ということ。

 

被害者である主人公がどれだけ、「大学生は優しかった」と訴えても、信じてもらえない。主人公だけが、大学生のやさしさを知っている。読者も、なんでわかってやらないんだ!と、もどかしく思うのだが……

 

じつは、主人公でさえ、大学生のもつ「真実」にたどりついていないのだ。

 

ここがミソだ。誰も真実に気づいていなかった……

 

そして、さいごに驚愕するしかけが、冒頭のレストランの場面。高校生二人が少女誘拐事件の犯人が捕縛されている動画を流している。それを聞き流しながら、引っ越しの相談をする男女。読者は、一度目は男女が仲良く相談しているようにしか感じない。しかし、物語を読み終わった後に読むと、全く違う様相が現れる。

 

やはり、真実は見えていないのだ。

 

時系列をばらばらに配して、この主題を読者にも体感させているのはすごい手腕だなと、うなりました。

 

関連図書

 

ここで紹介しておきたいのは、長谷川博一『殺人者はいかに誕生したか』です。

 

本書は、世間をにぎわし、震えさせ、怒りの感情に染め上げた凶悪犯罪事件を取り扱っているノンフィクションだ。

 

筆者は、この世間の憎しみを一身に受けた殺人者たちの心理鑑定を行う臨床心理士。

 

筆者は、犯罪者たちが幼少期に、虐待を受けるなどの壮絶な家庭環境にあったことをつまびらかに分析し、なにが原因で犯罪者がうまれてくるのか具体的に明らかにした。

 

「オタクだから犯罪を犯した。」

「性的嗜虐性をもつ異常者だから犯罪者になった。」

「即刻死刑にするべきだ……」

 

マスコミはそのように切り取り報道する。世間はそれを盲信する。

 

しかし、犯罪者たちのヴェールをはがした奥には、いままで虐げられてきた人としての顔がある。彼らは、世間にも、自分自身にも絶望しきっている。だから真実を語ろうとしないし、罰を望んでいる。真実は見えないままだ。

 

『流浪の月』に描かれるような、真実が明らかにならないまま犯罪者となり、世間から永遠に疎まれ続けるという人たちは、けっしてフィクションだけの存在ではないと考えさせられる。

 

『流浪の月』で心を痛めた方はぜひ、手に取ってみてください。