創作のための映画と読書まとめ

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『スパイダーマン: スパイダーバース』の感想と考察|なぜ息をつく暇もないほど面白いのか?

【注意!】本記事は、『スパイダーマン: スパイダーバース』を絶賛するものであり、一切のdisを含みません。それでもかまわん、という方のみご覧ください。

 

 

この映画についての前情報は、「ペニー・パーカーちゃんかわいい」くらいしか聞かなかった。あと、どうやら「面白い」らしいことも、ちらっと聞いたかな。

 

そういうわけで、キャラ萌え映画なんだろうなくらいの、軽い気持ちでいました。私事ですが、睡眠不足と腹痛で体調がよろしくなかったこともあり、なんなら、直前までちょっと帰りたかった。

 

しかし。本作が始まって早々に、そんな程度のバッドコンディションはいつの間にやら吹っ飛んでいて、あれよあれよという間に映画は終わっていました。

 

エンタメとしての完成度の高さに、感嘆のため息が漏れるほど。見終わった後の私は、うわごとのように「永遠に面白かった」などと訳の分からない言葉を繰り返すだけの存在となりました。

 

なんていえばいいのか。盛り上がるところが、ずっと一口目のコーラなんですよね。ずっとおいしい。飽きない。たるんだところがない。映画の視聴中って、ちょっと没入感から脱するところがあったりして、そこが冗長に感じたりするもんですが、それが一切なかった。

 

かといってトップスピードだけ出し続けているわけでもない。トップスピードだけなら飽きてしまうでしょう。ちゃんと緩急はある。それもまた絶妙で絶妙で。自陣目前からロデオドライブでタッチダウンまで持っていってしまった感じ。(アイシールド21ネタ)

 

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ペニー・パーカーは確かにかわいかったです。ですが、それは本作の魅力のほんの一部にすぎません。本作は、いくらハードルを上げても大丈夫なんじゃないかって気がしているので、全力であげていきます。未視聴の方は是非、劇場で観てください。音響や映像美も作品の魅力の一つだと思います。絶対劇場の方がいい。

 

 

 

以下、ネタバレ全開です。注意!】

 

 

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まとめるのが難しいので、面白いと思ったところをつらつらと書きます。時系列が行ったり来たりして読みにくいかもしれません。

 

 

 

 

 

 

導入から面白い。キャラの描写が完璧。

 

まず賞賛すべきは導入部。主人公マイルス・モラレスの抱える問題が、短い間に紹介されること。親の期待のもと、好きなグラフティアートができない。自分のやりたいこと、自分らしさが抑圧されていることが、スパッと描写される。

 

問題、悩みですから、当然導入としては重たいはずです。しかし、その重さは感じられない。なぜなら、キャラクター同士のかけあい、及び映像が非常にコミカルであるし、主人公の、明るい性格も十分描写されているからです。

 

そしてなにより、抑圧している父親が、ただ自分勝手な毒親ではないことが描写されている。これが大きい。厳しくするのは期待と愛ゆえであり、マイルスとの対話も、十分とは言えないが行っている。スパイダーマンのことが好きでないし、肝心なときにいないし、スパイダーマンを勘違いで指名手配するし、観客はこのキャラに対してフラストレーションを持ってもおかしくないはずです。けれども、十分に愛が感じられるから、それがない。パトカーから「愛してるって言え!」って要求するシーンが面白いのが要因のひとつかも。

 

ついでに言えば、エリート志向の生徒たちも先生も、必要以上に主人公に冷たいわけじゃない。先生なんか、きちんとマイルスの真意を汲み取ってますからね。全体として、嫌なキャラがいない。これは本当にすごいことだと思う。ラスボスのキングピンですら、その目的は「愛」ゆえなんですよ。愛ゆえの葛藤と衝突なんです。だから、嫌な気持ちにならない。エンタメにおいては満点ですよね。

 

マイルスの悩みは、叔父のもとで一旦、発散されている。叔父はマイルスの第一の師匠であり、観客は共感を持ちます。その叔父が、強敵としてなんども出てきていたっていうのは衝撃的だったし、お互いの正体が分かった後のやりとりも、短いながら印象深い(後述)。

 

意外性も申し分ない。エンタメの極み。

 

この作品には正体は実は〇〇でした!というのが三回もあって、三回もあるくせに、全部驚かされるんですよね。ドクターオクトパスが女だったこと、グウェンがスパイダーウーマンだったこと(最初敵かと思った)、叔父がヴィランだったこと。三打数三本ヒットにされると、もう参ったというしかない。(私の勘がよくないだけかもしれませんが)

 

キャラ造形が完璧。 成長物語の王道。

 

序盤で悩む主人公として設定されたマイルスは、何度も「責任」に応えるべく奮起しますが、うまくいかない。はじめのピーターを助けようとしたり(彼はスパイダーマンを見て録画しはじめちゃうほどに一般人なのである)、漫画情報でビルの上でジャンプしようとしたり、加速器を壊すことを申し出たり。でも、うまくいかない。

 

ここに、主人公の魅力がある。エヴァのシンジくんのように、責任に対して「やりたくない」じゃなくて、「やりたいけどできない」なんです。悩める主人公なのに、ウジウジしていない。

 

細かいところで成長はしているので、成長しないって言ってしまうのは語弊を産むだろう。スウィングができるようになって、ふたりでPCを運ぶシーンは立派な成長だし、そこにスパーダーマンふたりの絆ができていて最高だった。ついでに、自分もゲームで最初スイングできなかったことを思い出した。

 

成長を遂げるのは結局、ラストシーンに至る直前で、そこでの覚醒はぞっとするほどのカタルシスを産む。ガラスを割りながらビルから落下するシーンで、背筋に震えが走りました。ていうか、この映画背筋が震えるシーン多すぎなんですよね。

 

悩める主人公がシンジくんでないなら、ゲンドウもまた本作にはいない。最初こそ「できんのか!?」って詰め寄ったスパイダーチームだけれど、以降はしっかり成長を見守り、無理はさせない。中年のピーター・パーカーがしっかり第二の師匠として見守っている。はじめダメヒーローと思わせといて、しっかりスパイダーマンしているのが良い。

 

主人公は結局、ラスト直前まで弱いままでした。だからといって、アクションに見どころがないわけではないんですよね。叔父からの逃走シーンというアクションがしっかりとある。戦闘できないなら、逃走シーンでアクションしちゃいなよ!の精神ですね。しかも、これがかっこいい。紫のラインが残像として残るAKIRA的演出。透明化で隠れるというホラー要素。面白い。あっぱれです。

 

キャラクターの出番のバランスが完璧

 

キャラがあれだけ多いのに、みんなの出番のバランスがちょうどいいのも、すごいところだと思います。主人公の家族たちは、後半にかけてもちゃんと出番があって影が薄くならない。

 

スパイダーマン陣営も絶妙だ。中年ピーターも、しっかりと落ちぶれヒーロー(タイバニの虎徹みたいな)として主人公の貫禄があるし、グウェンもヒロインとして、マイルズを支えている。ツンデレであってもいいポジだけれど、あんまりツンがくどいと、この絶妙なバランスが崩れますから、いい塩梅のキャラだと思います。

 

他の三人も、別段目立ってはいないのにキャラが立ってている。もともと『ダークシティ』やギャグマンガから飛び出してきたみたいなキャラだから、わざわざ深く掘り下げなくても「こいつはこういうキャラだろう」と分かるのが良い。設定をうまく使ってるなあっていう印象です。

 

メイおばさんがあれだけ強いキャラなのもいい。出番が少ないけど大事なポジションだから、強い味付けになっている(もともとこういうキャラなのかもだが)。これはスパイダーマン陣営にも言える。豚なんかは、一番出番が少ないくせに濃い。

 

スパイダーマンたちの協力が尊い

 

スパイダーマン陣営のみんなが、「ひとりじゃなかった」ってセリフを言うのも良い。「たったひとりのスパイダーマン」が集結するからこそ生まれるカタルシス=「困難の共有」を、繰り返し強調している。PS4のスパイダーマンのゲームで、ヴィラン軍団にリンチされるシーンが思い出されて、なおさらグッときましたね。

 

でも、ラスボスは協力じゃなくて、主人公ひとりで倒すんですよね。ここもまたポイントが高い。ちゃんと主人公の成長を描き切っているし、スパイダーマンの様式を守っている。

 

おさえるべきシーンが全てある。話のスピード、緩急のつけ方も最高。

 

このように、おさえるべきところをしっかり押さえているのがすごいです。叔父さんとの別れも、戦闘・逃走シーンも、父親との和解も、スパイダーマン(特に中年ピーター)との別れも、備えておくべきシーンが全部あるし、そのどれも物足りなさを感じさせない。ちょうどいいバランス。キャラの出番も、イベントもちょうどいい。

 

叔父さんとの別れは、スパイダーマンにおいては外せない。けれど、そのセリフはきちんと「叔父さんからマイルズへ」向けられたものなんですよね。「大いなる力には大いなる責任が伴う」というお決まりのセリフではなくて、「お前のやりたいように生きろ」(ニュアンスはこんな感じだったはず)なんですよ。パラレルワールドという設定から、「個性」「みんなが主人公」というテーマを取り出しているわけです。なんとなく映画のポケモン思い浮かべた。

 

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話の緩急もちょうどいい。これが一番すごいところだと思う。チェンジオブペースが完璧なのである。だからこそ、息をつく暇がないのだ。

 

主人公の成長物語なので、当然何度も挫折シーンを描く必要がある。そうでないと、カタルシスが生まれない。

 

だからといって、ウジウジするシーンは一切ない。それは、キャラが多いこともあって、一人でいるシーンがほとんどないからだ。マイルズは、悩みをちゃんと口に出す。そして、それを受け止めてくれる人がいる。だから、緩みの中にも考えさせられる一言があって、飽きない。スパイダーマンお得意のギャグでの緩急もある。「いいお知らせがある、モニターはいらない」っていうギャグと、スパイダーチーム全員で天井に張り付くシーンがお気に入りです。

 

細かいところで言うと、パラレルワールドの別のスパイダーマンっていう設定が、メイおばさんでさえもすんなり受け入れてしまうところも、話のスピードを維持するのに貢献していると言えるだろう。「スパイダーマンにはよくある状況」なんていうギャグにも繋がってしまう。素材の有効利用にもほどがある。

 

繰り返しによるリズムがカタルシスを産む

 

あとは、伏線回収というか、同じ流れを繰り返すことで生まれるリズムも、この作品がまったく飽きない理由のひとつだと言えるでしょう。今さら言うことでもないが~というお決まりのスパイダーマン紹介、スニーカーの紐いじり、マントのくだり、中年ピーターとの別れ際など。叔父さんとのやりとりで使ったショルダータッチはグウェンとラスボスのところで使っている。こういうシチュエーションの繰り返しが小気味よく、いちいちにやっとさせられるので好きだ。

 

細かいところ。かわいさ、声優、映像など。

 

あと細かいところを挙げれば、ペニー・パーカーのかわいさ。ZUN絵っぽい。ジト目、体育座り、決め顔、小突くシーン、スカートを押さえて赤面するシーンが好きだ。愛している。

 

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かわいい

 

スパイダーマンのコスチュームが全部素晴らしい。グウェンのスーツのパーカーと、バニーガールみたいな黒い部分が好き。前から見るとぺったんこなのに、横から見るとちゃんとあるところも好き。あと腕に筋肉がついてるのも好き。愛してる。

 

声優が豪華なところも良い。吹き替えしかやってなかったのだが、それで十分というか、むしろ吹き替え一択である。ちゃんとアニメで人気なところを使っているし、全員キャラに合ってる。特に大塚明夫。向こうだとニコラス・ケイジらしい。

 

映像がアメコミ風なのもよかった。汗がとまらない描写とか、セリフや擬音が飛び出すこと、色使いなど。これでゲームがやりたい。

 

エンディングで凛として時雨が流れるのもよかったですねえ。

 

というわけで、以上、スパイダーマン: スパイダーバースの好きなところ、面白いと思ったところでした。挙げていけばキリがないので、この辺で終わります。終わったとき一番に思ったのは、「何回でも見れる」ですからね。それほどに面白いですこれは。5000字を二時間弱で書いた熱量よ伝われ。

 

 

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