『プラトーン』の感想と考察|リアルすぎる戦争!戦場という地獄で、人は人でいられない
「ベトナム戦争が舞台だから、ゲリラの竹槍とか落とし穴で翻弄されるんだろうな」
というような、のんきな考えで見たことを後悔させられる、リアルな戦争を描き切った作品でした。
もちろん、私自身は、本物の戦争を見たことも経験したこともない。
ただ、この地獄は現実として存在していたし、今もどこかで起こっているんだということを、平和ボケした日本人に実感させるほどに、過酷で残酷な描写だったということです。
そして、戦争という場が人間をどう至らしめるか。
序破急の構成もなく、ただひたすらに羅列される、戦争がもたらす残酷な描写、といった印象でした。
本作は、ストーン監督による実体験を基にして作られているので、どこからともなく攻撃される恐怖などを、自分もそこにいるかのように体験できます。
これを見れば、戦争反対というより先に、絶対に戦争に行きたくないという感情になるのではあるまいか……
プロットの構成
序:新米、地獄に降り立つ
主人公のクリスは、大学を中退し、自ら軍に志願した。
一方、周りの連中は貧乏人ばかりで、「仕方なく」志願してきた。さらに、度重なる従軍生活でスレてきている。
この対比により、クリスは甘ったれたお坊ちゃんの印象を受ける。
また、クリスは「彼らこそ本当のアメリカ人だ」と言って、従軍という行為が、ある種の英雄的行為であると考える、理想主義者としての側面を持つ。
これから、その理想がぶち壊されるのは想像に難くない。
さて、戦場では、新人だろうが、さっそく戦闘に駆り出される。
深い森の中を、いつ襲ってくるか分からない敵に注意しながら、歩き続ける。
夜になっても気が抜けない。眠っている間に殺される。
命令に従っているだけなので、目的も分からず歩き回らなければならない。
敵はベトナム兵だけではない。森には蛇も虫もいる。
夜、戦闘になり、さっそく新人が死んだ。
「さっさと死んだ方が苦しまなくて済む」
戦争では、死ぬも地獄、生きるも地獄なのだ。
破:現実逃避と村での対立
キャンプ地では少し羽が伸ばせる。
兵たちは踊ったり、歌ったり、酒を飲んだり、麻薬を吸ったりする。
これらの行為は、一見楽しそうに見えても、結局は戦争の一部なのだ。
疲弊した心を、なんとか誤魔化そうとしているだけにすぎない。
そんな折、米兵たちはベトナム人の村を発見する。
村から武器が見つかると、米兵たちは村を荒らして回る。
村人は泣いて「俺たちは無関係だ」と訴えるしかない。
しかし、バーンズという兵が、気に入らないやつを殴り殺し、村長の嫁を射殺、娘に銃を突きつけて脅しつける。
それを止めたのがエリアスという兵士。
そのときの恨みを買って、エリアスはバーンズに、戦闘のどさくさに紛れて殺されてしまう。
クリスは怒るが、証拠がない。
また、クリスは村の娘たちが米兵たちにレイプされそうになっているのを見つけ。「動物だ」と罵る。
米兵たちは悪びれる様子もない。
村と米は焼かれ、村人たちは保護という名目で連行される。
人間的行為がことごとく迫害されるのが、戦場でのリアルなのだ。
こうして、クリスの中の理想は崩れ去っていくのだった。
急:大規模戦闘
クリスにとって最後の戦闘となる。
夜での戦闘は、光線となった弾丸だけが明るい。
錯綜する情報と戦闘の中で、クリスはがむしゃらに射撃するしかない。
朝になり、何とか生き残ったクリスは、同じく生き残ったバーンズを発見する。
逡巡の末、クリスはバーンズを射殺し、本国へと帰還する。
上空からは死体の山が見え、クリスは泣きながら、「ここで見たことを伝え、これからをどう生きるかが重要だ」と考えるのであった。
総論
印象的なのは、クリスがレイプしようとした兵に「動物だ」と怒鳴るシーン。
実際、彼らは人間である前に動物なのだ、と実感させられる。
人間が人間であるためには、整備された環境が必要です。
そこから遠く離れた地獄のような場所で、人間の常識は通用しない。
また、エリアスとバーンズのいざこざも印象的でした。
バーンズは兵としては優秀なのです。
命令通りに、村人かゲリラ兵か判別しようとして、非人道的行為を行う。
これは人間や動物というよりは、機械というべきでしょう。
優秀な兵とは、命令通りに動く、機械のことである。
当然、人は機械ではない。
一方のエアリスは、クスリに依存しながらも、なんとか人間であり続けたのです。
しかし、エリアスは、人として当然の行いをした結果、「命令に従えない兵は、味方を危険にさらす」として、私刑に処されるのです。
かくして、「人間」であるうちは、まともでいられないのが「戦場」だった。
その非情なる地獄を生み出すのが戦争です。
細かい描写のひとつひとつが、戦争をスクリーンに現実化し、等身大の現実として我々に襲い掛かる。
これぞ戦争映画、といった感じでした。
反戦!と声高に叫ばなくても、リアルな戦争を見れば、誰だって嫌になるはずなのだ。「人」であれば。
↑こちらに紹介した書籍を一部参考にしました。