『ブライトバーン 恐怖の拡散者』の感想|これ以上世界について考えるのが嫌になる、そんな映画。
YouTubeを見ていると、いやというほど見せられた本作の広告。
目に刺さったガラスの破片、高速移動で襲ってくる少年、泣き叫ぶ母親。これは是非見なければ、と思った。
ポケモンの発売と本作の上映とを楽しみにして、この一週間頑張った。
まさか、こんなに血を見る羽目になるとは思わなかった。
けれども、見終わった後には、奇妙な充足感があった。
まるで、ふわふわの羽毛に包まれた鳥の皮を割いたら、予想通りにグロテスクなピンクの肉が出てきた時のような安心感。
やっぱり、スーパーマンみたいな特別な人間が地球にいたら、そうなっちゃうのが普通だよね、みたいな。
ストーリーをかいつまんで説明する。ネタバレ注意。
不妊で悩む夫婦がいた。ある夜、衝撃と共に宇宙船が墜落した。
宇宙船には赤子が乗っていた。母親は、それを天の施しだと思って育てた。
ブライアンと名付けられたその子は、素直な聞き分けのよい子として育っていた。
しかし、12歳の誕生日を迎えたその夜から事態が一変する。
謎の言葉に導かれ、力に目覚めたブライアン。芝刈り機を何メートルも投げ飛ばす。刃物は彼を傷つけることはできない。高速で移動できる。空を飛べる。目からは熱線が発射される。
次第に、ブライアンは自分が特別な存在であること、その他の人間は、育て親も含めて自分より下等であることを認識する。
それからのブライアンは自分の思うがままに力を振るう。なによりも嘘を、裏切りを嫌った。しかし、自分の行為がそのきっかけを与えていることには無頓着である。12歳の、自分が特別だと思い込んでいる少年さながらに、自分の行いについて客観的にみることができない。まして、ブライアンは実際に「特別」である。
女の子の手を握りつぶした。女の子の母親を殺害し、腹に穴をあけて磔にした。叔父の車を空中から落として殺害した。
父親はそのことを知ると、ブライアンを撃ち殺そうとした。そこには葛藤があった。愛情を注いできた息子である。しかし、このまま放置しておけばまた死人が増える。意を決して、息子の頭を銃で撃った。
しかし、ブライアンは無傷であった。父親は熱線によって頭を焼かれた。
一方母親は、まだ息子の無実を信じていた。だが、いよいよ言い逃れできない証拠が見つかる。ブライアンは、母親が、自分のことを疑っていると知る。ブライアンが母親を襲う。救援に来た保安官ふたりが、残虐に殺される。一人は高速タックルによってミンチに、もう一人は壁にたたきつけられて血だるまにされた。
母親は、唯一ブライアンを傷つけた宇宙船の破片を持って、息子に変わらぬ愛と、信頼をささやく。ブライアンは、良いことがしたい、本当だと母親に訴える。
抱き合う二人。だが、母親の手には宇宙船の破片が握られていた。振りかぶる。しかし、止められてしまう。驚愕の表情のブライアン。彼は、叫びながら母親を抱き、空へ飛んだ。血まみれの母親と、穏やかな顔の息子が向き合う。
空で手を放された母親は、地上に向かって落ちてゆく。
……というように、とことん救いがない。
この映画は、見せたいものがはっきりしているし、それ以外の描写はできるだけ簡潔に、テンポよく展開する。
魅せたい場面、要するに残虐な殺人シーン、恐怖を与えるシーンに関しては、じっくり、濃く演出されている。
もし、スーパーマンのような超人的パワーを持ったティーンエイジャーが、自分を少しでも不愉快な感情にした相手に、好き放題暴力をふるったらどうなるか。中二病の妄想をそのままに実現させたらどうなるか。
だれも止められはしない。愛情も、言葉も、実に空虚だ。
暴力こそが自由で、残虐こそ世界だ。美しい形をした石をひっくり返したところに、密集した虫たちがうごめいている姿を、まじまじと見せられたような気持ちになる。
これでこそホラーだ、と僕は思う。
血みどろの、ただ残酷なホラー映画を観たい方は是非。