創作のための映画と読書まとめ

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筒井康隆『読書の極意と掟』の感想|筒井康隆の作り方とでも言うべき一冊

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筒井康隆という偉大な作家が、どのような読書をして、そこから何を得てきたのかということが、自身の言葉で書かれているのが本書である。

 

それぞれの本に、エピソードがあり、思い出があり、教訓がある。それを、これだけたくさん語れるということに感心させられる。

 

あらすじと見どころの紹介もしてあるので、読書案内としても役立つ。オチを言ってしまっている作品もあるので、その点には注意しよう。

 

 

 ≪目次≫

 

 

 

 

本作の構成

 

本書は、筒井康隆が読んできた本を、当時の思い出やエピソードを交えながら、紹介していくという構成になっている。

 

第一章が「幼少期」、第二章が「演劇青年時代」、第三章が「デビュー前夜」、第四章が「作家になる」、第五章が「新たなる飛躍」で、全部で66作品について語られる。

 

もちろん、筒井康隆の読んだ本の一部にすぎないわけだが、これだけの数の作品に、思い出を付して語れることに感心した。

 

また、作家になるまで、どういう読書をして、どういう変遷を辿ったのかについても語られている。

 

本書から分かるのは、様々な経験はもちろん、膨大な読書が、作家・筒井康隆を作ったということである。

 

それを自身の言葉で解説してくれているのだから、まさしく「筒井康隆の作り方」だと言えるだろう。

 

内容及び考察

 

幼少期においては、家にあったという世界文学全集を読み漁っていたという。恋愛ものが嫌いだったといっているが、とにかく濫読していたことにより、自分の好きなものの傾向がはっきりしていたのだろう。

 

また、トオマス・マン『ブッデンブロオク一家』において「いい作家が出る条件は、いい家柄に生まれ、その家に沢山の本があり、その家が没落することである」という文壇の定説を引用して述べているが、要するに、「たくさん読め」と言っているのだ。

 

夏目漱石を諳んじるほど読んだことも、世界文学全集を開いたこともない私からすれば、身をつまされる話である。

 

また、青年期を過ぎたあたりから、意欲的に作品を吸収するような読書になっているようだ。

 

特に、作家になってからはそうだ。しっかりと、読書を血肉に変換している。

 

フィリップ・K・ディックの『宇宙の眼』から、シュールレアリスムがSFに活かせることを発見するのなど、読書から自分の作品の方向性を得ているのだ。

 

また、問題解決という、「目的のための読書」をしているという点にも注目できる。

 

漠然と知識を得るためではなく、「なにがしたいか」という目的をもって読む。当たり前のようでいて、意識的に行っているかといえば、簡単には言えないのではなかろうか。

 

筒井は、自身の代名詞とも言えるスラップスティックSFについて、無理解な批評が多いため、批評言語を習得すべくフライの『批評の解剖』を読むことに決めたというエピソードなどから、解決のための読書の傾向がうかがえる。

 

さらに、羨むべくは、他の作家から「これを読んだ方がいいよ」と推薦された、というエピソードだ。

 

周り良き理解者且つ読書家がいれば、このようなルートでなにかを発見することもありうるのだ。

 

まとめ

 

大作家は、濫読から自分の好みを知り、自分の行く道を決定した。その行く道を支えるのもまた、読書である。

 

さらに、意識的に読書しているからこそ、読んでいた当時のエピソードと、そこから得た知識を語ることができる

 

このような読書経験があって、筒井康隆の多彩な作風が生み出されたのだ、と納得できる。

 

ただ漫然と読むのではなく、確実に、血肉に変えていることが素晴らしい。