創作のための映画と読書まとめ

当ブログは「良き創作は良き鑑賞から」をモットーに、鑑賞した映画と本についてまとめておく目的で設立されました。同志よ集え!

【感想・解説】ジェームス・W・ヤング『アイデアのつくり方』創作のアイデア出しに困っているならコレを読め!(おまけ付き)

f:id:landmarks:20180906044223j:plain

ジェームス・W・ヤング『アイデアのつくり方』は、アイデア本の古典として今なお読み継がれる名著です。

 

CCCメディアハウス出版のその本は、小さくて薄く、そしてかわいらしい本です。

 

 

くまのプーさんとか出てきそう。
 
あと、帯の文句もいいですよね。
「60分で読めるけれど一生あなたを離さない本」
ちょっとホラーかも。
 
本文はたったの62ページ。少ないながら、内容は濃密です。
 
この記事は創作をする人、小説等を書く人向けに書いたのですが、「アイデアをつくる」というスキルは誰もが求めるものだと思いますので、創作目的でない方も、是非ご一読ください。
 
要点自体は多くないので、つまみ食いする感じの読みでも大丈夫かと思います。
 
 肝心なのは、アイデアを「思いつく」のではなく「つくる」と言っている点です。
 
「果報は寝て待て」といいますが、アイデアは寝ても待っても現れません。自分から迎えに行きましょう
 
その方法を教えてくれるのが本書です。
 

 

書の要点

この本の要点は極めてシンプルです。
 
 

アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ

今ではよく聞く答えですけれども、具体的にはどういうことでしょうか。

 

ヤングはこのことについて、広告と精神病理学の関連性を例に挙げています。

 

この二つ――広告と精神病理学――の間には一見何の関連性もと考えなければ考えられないことはない。しかし精神病理学者は言葉――情動的経験のシンボルとしての言葉――が患者の生涯に及ぼす深い影響を発見している。

ハロルド・ラスウェル博士は精神病理学者によってなされたこの言語=シンボルの研究を政治活動の分野に適用して、この言語シンボルがいかに同じような情動的威力を伴ってプロパガンダに活用されているかを証明した。

 

 なんのこっちゃよくわからん。

精神病理学によると、その人の経験に基づいたショッキングな言葉があり、それをうまいこと使うと宣伝効果が上がりますよ~ってことだと思います。戦争経験のある人は、「戦争」というワードに嫌でも反応してしまうはずだ、ということでしょう。

 

 

この本の主張は極めてシンプルなんですが、その説明が掴みにくい箇所がいくつかあります。

 

それを補ってくれるのが、竹内均氏による解説です。こちらは二十数ページで、もうこっちだけでよくない?というくらいわかりやすいです。

 

例として挙げられているのが、ダーウィンの進化論です。論の証拠として、化石が挙げられます。地層が新しくなるほど、そこにある生物の形態は複雑化しているのです。これが生物が進化してきた証拠だ、という。しかしこの事実は、ダーウィンが発見したわけではなく、「既存の要素」として存在したんです。そして、それら複数の「既存の要素」を「組み合わせ」た上に、進化論があります。

 

それはジグゾーパズルに似ています。バラバラだったピース集めて、1つの新しいアイデアを導く、ということです。

 

 

素を組み合わせるための手順

では、実際に「既存の要素を組み合わせる」ためのプロセスとはどのようなものなのか。

 

 

それは5つの段階に分けられていて、

①データ(資料)集め

②データの咀嚼

③データの組み合わせ

④ユレーカ(発見)の瞬間

⑤アイデアのチェック

 という順番になります。

 

 

まず①は「データを集める」こと。これは多ければ多いほどいい。

注意すべきなのは、関連が薄いからといってデータを排除してしまわないことです。

どんなデータが役に立つか分かりませんし、見えない関連性が存在する可能性が大いにあります。

そして、そのデータを独立した要素に分解します。

 

 

次に②「咀嚼すること」。それらの要素について、十分に理解を深めること。

 

 

そして③、それらの要素を「組み合わせること」。本書では一枚の紙にまとめることが推奨されています。

『ペンギン・ハイウェイ』においても、アオヤマくんが同様のアドバイスを受けていましたね。

 

 

そして④、ユリーカ、とつぶやく。これも『ペンギン・ハイウェイ』で言ってましたね。

さては森見さん、この本読んだな?

 

 

 

 

 

最後に⑤で、生まれたアイデアを育てていく

 

これらはジェームズ・W・ヤングの方法というよりは、川喜多二郎のKJ法に近いやり方です。これは筆者が、ヤングの方法を、より進化したKJ法に寄せて解説して、わかりやすくしたのだと思います。

では、この方法を創作という場に当てはめてみましょう。

 

 

まず、たくさんのストーリーを知っている必要があります。ジャンルを問わず、たくさんの作品に触れるようにします。SFが書きたいからといってSFばかり見ていてはいけません。


 

www.kowasiya.com

 

 

 

 こちらで少し触れたように、たくさん映画を見るというのがひとつの手です。

 

 

そして、作品を要素化します。例えば、『バトルロワイヤル』を見て、「サバイバル」という要素を取り出す。

(要素化についてもまた別に書きたいな、と思っています。)

 

 

次に咀嚼。「サバイバル」には欠かせない、理不尽、裏切り、暴力、逃れられぬ戦い、黒幕などなど。要素が持つものを十分に考察する。

 

 

③で組み合わせる。「サバイバル」に「仮面ライダー」を組み合わせると『仮面ライダー龍騎』が生まれ、「鬼ごっこ」を組み合わせると『リアル鬼ごっこ』になる。

 

④ユリーカ(発見)!

 

 

最後に⑤で仕上げます。もちろん「サバイバル」と「仮面ライダー」を組み合わせた瞬間に「龍騎」ができるわけではありませんよね。龍騎にはさらにゲーテの『ファウスト』に代表されるような「契約」という要素や、「時間的に閉じた世界」など、様々な要素が加わっています。それらをまとめて、プロットを立てて、というふうに組み上げていくわけです。

 

 

作品自体が要素になることもあります。『仮面ライダー龍騎』に「美少女」という要素を組み合わせてできたのが『魔法少女まどか☆マギカ』で、「仮面ライダー」と「魔法少女」にはそれぞれ変身という関連性があります。

 

キャラクターにおいても、既存のものと組み合わせによって形作ることができます。

 

ハンターハンターのクラピカは、ナウシカの王蟲をモデルにして作ったとのこと。

 

怒りで目が赤くなるという設定を要素化しているわけですね。

 

このように、既存のものを要素化し、変形させれば、魅力あるキャラクターを作ることができる。

 

まけ≫イデアのつくり方」の次はコレ!

おまけ、というにはあまりに恐れ多いですが。むしろこっちが本編なのでは?

このような「組み合わせる」のほかにもアイデアの生み出し方があり、それらが驚くべき網羅性で紹介されているのが『アイデア大全』です。ツールが多すぎて私程度では使いこなせないくらいすごいです。「組み合わせる」はいわゆる足し算ですけど、変換や引き算など、山ほどあります。恐ろしいですよ、ほんとに。「アイデアは既存の組み合わせ」という言葉が一般に流布されていますけど、もっと奥深い世界があります。