創作のための映画と読書まとめ

当ブログは「良き創作は良き鑑賞から」をモットーに、鑑賞した映画と本についてまとめておく目的で設立されました。同志よ集え!

【新書】貴志祐介『エンタテインメントの作り方』の感想|売れっ子作家による、作家になるための実戦的なアドバイス集

貴志祐介といえば、エンタテイメント小説を連続でヒットさせ続けている、超売れっ子作家である。

 

 ヒット作は数知れず、いちいち上げるとキリがない。私が初めて読んだのは『クリムゾンの迷宮』。ゲーム的な設定は、漫画の方が多くて、小説だとライトノベルぐらいのもの。ところが、この作品はホラー小説としてそれを成し遂げている。是非、映画化してほしい作品です。

 

他に読んだものといえば、『ダークゾーン』『新世界より』『悪の教典』『雀蜂』『十三番目の人格 ISOLA』ぐらいかな。あんまりミステリは読んでない。『ISOLA』はぞっとするオチで、小説で怖いと思ったのはこれが唯一じゃないかなあ。あんまりホラー小説自体を読まないんだけど。『雀蜂』があんまりおもしろくなくて、そこからあんまり読まなくなった。

 

ゲーム的なエンタテイメントを書かせたら、一線級だと思っている。そんな作家の指南書なんだから、是非読まなくては、と思って買ったのが(挟まっていたレシートによると)2017年の10月10日。なんとも長い間寝かしていたものです。

 

「売れる小説はこう書く」なんて挑戦的なサブタイトルに反発したのか、単に忘れてしまっていただけなのか。もちろん、読むのを忘れていただけです。

 

 

前置きはこの辺にして、内容に移ります。

 

この手の指南書でまず心配なのは、自分語りばかりのものになっていないかどうかですが、そうではないので安心しました。

 

もちろん、作者の体験は出てくるのですが、それは自分が苦労し、試行錯誤したこと、気を付けていることが語られているのであり、むしろ有益です。これだけのヒットを飛ばし続ける作家であっても、デビュー前は何度も新人賞に応募し、試行錯誤してきていることは、書く勇気につながるのではないでしょうか。

 

さらに、作者はこの指南書の類を読み漁ったこともあるという。これも、なんだか安心させられる。作家になる一握りの天才は、そういったものを見ないのかと思っていました。

 

「長編を書くには体力が必要だから、はじめは短編を書いてた」とか、「書く前は最高に面白いと思っていたのに、途中から段々とつまらなく思えてくる現象については、最初からあまり意識を高く持たないことが肝要だ」とか、すごい普通なんですよ。一般人の感覚。そこがありがたい。

 

つまり、貴志祐介も最初から書けたわけではなく、努力と試行錯誤の上に書けるようになった、ということです。

 

ただし、それは幼少期からの膨大なインプットに基づくものであることを理解しなければなりません。彼は小さいころから本をむさぼるように読んできたことが、物語る上での体力になっていると言うし、読みもしないのに作家になりたいという人に対し苦言を呈している。最近の作品、特に長編を読み通す体力がなくなってきている私には、耳が痛い話です。

 

いつも思うのは、成し遂げた人と言うのは、たいていの場合、幼少期からの積み重ねがある。それを聞く度に、ゲームばかりしてきた自分の過去が悔やまれてなりません。過ぎたものは仕方がないんですけどね。

 

構成としては、小説を書く上で、ひっかかるであろう「アイデア」「プロット」「キャラクター」「文章作法」「推敲」「技巧」について、章立てて説明しています。それぞれ、自身の作品を例示してくれているので、説得力があります。『天使の囀り』において、プロットが膨大になった話などがありました。さらに、筒井康隆など、他作品もたくさん紹介されているので、その辺は公平かな、と思います。

 

特に、「アイデア」の章が面白かったです。既存の組み合わせで生み出す方法はもちろん、「もし○○が××だったら?」を膨らませてアイデアにする方法が紹介されています。『新世界より』も、その発想法から生まれたとのこと。その突飛な発想を、どのように物語へ昇華するかが鬼門な気もしますが、そのあたりは、さすがに本人の力量と言ったところでしょうか。

 

あとは、こまめにメモをとることも、アイデアにおいては重要です。メモに関しては、『思考の整理学』にも同様のことが書いてありました。つぶさにメモし、寝かせるのが大事です。私も実践していて、無印良品のメモ帳がやっと一冊埋まりそうです。

 

「プロット」では、はじまりとクライマックス、結末の三点が決まればプロットは書ける、という情報が一番有益でした。あとは、ジャンルごとにいくつか決めておくべきこと(たとえば、ミステリにおけるトリック)があるということや、読者を飽きさせないための「推進力」を設定することなど。テーマについては、「最初に決める必要はない」と新説を提示しています。自然と決まるのがテーマであるから、先に決めてしまうとむしろ不具合があるとのこと。

 

「キャラクター」では、「アイデアはいいけどキャラに魅力がない」といわれる理由が書かれている。『悪の教典』の「ハスミン」がどうやって生み出されたかについても書かれていて、興味深い。

 

あとは、エンタイテイメントにおいて重視される「読みのテンポ」についてなど。このあたりは、「エンタテインメントの作り方」と題する本書でないと、なかなか指摘されていない部分なんじゃないか、と思います。

 

他にも、細かい部分まで色々記述があります。気になった方は、是非手に取ってみてください。

 

ライトノベルとはまた違う、エンタメというジャンルで書いてみたいなあという方は、一読して損はないかと思います。

 

どこかで見たことのあるアドバイスはもちろんありますが、何回も聞くということは、それだけ重要であることの裏返しであることに注意すべきでしょう。

 

結局、「たくさん読んでたくさん書くこと」が唯一の道らしいことが分かるが、それを踏まえて、どういった点に注意すべきか、実体験を基に書かれているので、納得できるものが多かったように思います。中にはわかりにくいものもありましたけれど、それは貴志流なんだろう、と思っておくのがいいのでしょう。例えば、キャラクターの声をイメージしろ、というのはピンとこなかったです。

 

ただ、こういった指南書の類の中で、ここにしか書いてなさそうな情報もいくつかあったので、総合的に見ればいい本だったと思います。

 

「アイデア」については、この辺と同じことも書いてあったりしました↓